岩波の味。高グルコ酒?低グルコ酒?

 写真は「岩波 普通酒 R01BY」となる酒母米たちです。

 さて、日本酒ブームとは言いますが、日本酒は全体の消費量は年々減っており、延いては個々の酒蔵の売り上げは年々落ち続け、その状態を「どげんかせんといかん。」という焦燥感に駆られているのは多くの蔵に共通であると考えます。

 そんな中、岩波酒造も全盛期の3000石から、今や1000石程度にまで生産量は落ち、そんな状況の中、私林は入社させていただきました。馴れ親しみのないjargonをだんだんと理解し、業界のことを少し理解した段階で、「これはどげんかせんといかん。」と思った私は、とりあえず来年一本だけ実験/お試しで昨今の日本酒トレンドである「高グルコ酒」の酒を作り、首都・都市圏の大きな市場で闘うことで、岩波のブランドを強固にしていこうとプランを立てました。実際に、雇用一年目の半ば頃からは、そのように動き、様々な小売店様に行きお話を聞かせていただき、社内では「高グルコ酒」を作るぞと喚いていました。

 「高グルコ酒」の説明は、高知県の#司牡丹 酒造株式会社様の素晴らしい解説にお任せします。

 しかし、司牡丹の竹村社長が別の文章でもおっしゃる通り、「高グルコ酒」は新酒鑑評会等で欠点が指摘されにくいという流れから登場し、その影響が市場酒にまで及び、市場の人気を獲得したという流れを汲むお酒であり、各地で地料理と美味しくマッチングすることで発展・洗練・支持されてきた地酒の文脈・歴史・物語をかなり無視しているのは否定できません。

 もちろん、林個人も「高グルコ酒」が大好きであり、最高の気分でたっぷり飲み干す日もあります。また、この「高グルコ酒」の登場によって、地料理が新たなる変化を遂げる可能性も秘めていることは否定しません。

 つまり、ここで言いたいのは「高グルコ酒」が正義か悪かということではなく、上述の資本主義的トレンドと文化的縮小(と国家的酒税減収&斜陽産業?=國酒イメージ事情)の三つ巴な日本酒事情に直面した時、「長く松本に愛されてきた岩波酒造は、どうしたいのか?」と真摯に問われているということです。

 こうした問いに悩み、社内での「高グルコ酒プラン」への様々な賛成/反対の声を受け、ますますどうすれば良いのかと迷っている時に、超有名小売店社長曰く「首都圏市場での地酒の取り扱いは最強」という太田商店様からお声を掛けいただきました。商談・雑談・試飲・勉強等を経て、太田商店様となら間違いなく、蔵が良い方向へと進んでいくと確信しました。そして太田商店様との出会いこそが、酒蔵の大改革を行う最大のきっかけ・大義名分となっております。

 この出会いを経て、二段落前の問いに我々が出した答えは「長く松本で愛されてきた岩波の味を、ものすごく洗練させ、より広いお客様に提案してく!」というものでした。つまりは、岩波酒造の長い歴史の中で築いてきたアイデンティティの「キレとウマミの調和する酒」をより洗練・体現し、より強くアピールしていこうと方針が決まったのです。

 こうした若造の生意気な動き・決定に対して、社長・佐田杜氏と蔵人の皆さんは変化を積極的に受け入れてくださり、昨今の大変革に至っています。例えば、今回の写真にある酒母米(麹米)。種麹屋さんと夏頃から何度もなんども相談・検討をすることで、使用する種麹を変更をしたそうです。実は、これまで「これで良い」と慣習的に考えていた種麹の銘柄も、こうしたきっかけによって、改めて検討し直すことで、改善させたそうです。さらには蒸す際の蒸し具合も色々と変更しているそうです。

 そんな昨今の岩波酒造です。結論、岩波の味は「高グルコ酒」あるいは「低グルコ酒」でもなく、「キレとウマミを調和させた酒」乃至はバランス型の酒をこれからも行くぜーと行った感じです。